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2024年05月21日

姫路でコピーライターをやる理由。

姫路でコピーライターを名乗っていると必ず聞かれることがある。
「なんで姫路でやってるんですか?」と。
これは、僕の“中小企業こそブランディングが大事である”という信条に直結する問いでもあるので真面目に答えてみたい。

我がまち姫路は、兵庫県下で神戸に次ぐ2番目の都市であるとはいえ、神戸、大阪と比べると人も少ないのどかな地方都市である。
新幹線の停車駅でもある姫路駅周辺こそ、近年では駅ビルやシネコンなども誕生し(ちなみに商業施設『テラッソ』、シネコン『アースシネマズ姫路』は当方のネーミング)
開発が進んでいるが、駅前を少し離れると里山や瀬戸内のおだやかな海が広がっている。

姫路、播州エリアは中小企業が多く、キー局でTVCMを打つような、いわゆるナショナルブランドを名乗る大企業の本社は少ない。
必然的に大手広告代理店の支社もなく、新聞や折込広告など紙媒体を主体とした地元広告代理店が昔ながらの商売を行っているのが現状だ。
広告代理店が少ないということは、その下請けやパートナーとなるデザイナーやコピーライターも少ないということになる。

とはいえ、令和となった現在、大都市を離れ地方で活躍するクリエイターが増えているのも事実だ。
地方創生という平成の大号令が良かったか否かは別として、地元を軸に活躍するクリエイターはこの20年ほどで飛躍的に増えたと感じている。
都会からローカルへというこの20年の流れは、インターネットの普及と呼応しているが、2000年以降、制作に関連するツール(DTP)とデリバリー環境が著しく変わった影響が
やはり大きい。
デザイン制作においてはほぼすべての工程がMacで完結するし、最終工程となる入稿作業もメールで済んでしまう。どこにいてもクリエリティブが可能になったわけだ。

地方にいても作る側の環境は整ったが、決定的に足りないものがあるとすれば、依頼する側である経営者の“知識”と“意識”である。

中小企業の経営者が不勉強ということではない。地方にはブランディングやプロモーションに関する専門的かつ実践的な情報を提示し、ハンドリングする人間がいないのだ。

たとえば、経済産業省では10年ほど前から企業や事業者の経営改善のためにブランド力を向上させる『デザイン経営』の導入をかなり推奨している。
が、それを知っている経営者は地方にどれだけいるだろう。ましてや実践している経営者となるともっと少ないはずだ。

企業の業績や将来性に多大な影響を与える『デザイン経営』という視点は、大企業であれば黙っていても大手代理店やコンサルから集まってくるだろう。
それまでの経験で得た膨大なリソースもある。
しかし中小企業はブランディングやプロモーションのような価値ある情報や知識を自ら取りに行かなければならない。
取りに行っても、それを導入、実践できるかも不明である。また、資本に余裕のある大企業であれば、トライ&エラーを繰り返しながら最適解にたどり着くこともできるだろう。
しかし中小企業ではエラーは敵であり即減点だ。だから若手がトライできない、保守的になる。そしてますます硬直化する。
トライできるのは経営者、それもトップダウンが可能な中小企業の経営者だ。

地方にも優れた経営者がいる、優れた製品がある、社会に有益なサービスがある。
にもかかわらず、“差別化”という聞き慣れたキーワードだけを唱えて、従来のあり方を革新できないジレンマを抱えた経営者がいかに多いことか。
現状維持ならまだいい、もしも事業が途絶えてしまったら、まことにもったいないことだと思う。

BtoBであれ、BtoCであれブランディングが及ぼす影響は、売上や人材採用に直結することを地方の経営者も知らねばならない。
資本がなくとも、中小企業には歴史がある。磨けば光る商材やサービスが必ずある。磨く行為がブランディングだ。それは可能性の探求と言ってもいい。
この探求に我々は存在意義を賭けている。

コピーライターの立場からいえば、ネーミングやスローガンに集約された一つの言葉に、企業を変革するパワーがあるという事実があまりにも知られていない。
クリエイティブディレクターの立場からいえば、戦略的ビジネスツールとしてのブランディング、V.I開発がどれほど顧客にインパクトを残すかという事実が
あまりにも知られていない。

ブランディングの先駆者であるウォルター・ランドーは言った。
「製品は工場で作られる。ブランドは心の中で作られる」と。
これを実証するために、僕は姫路でコピーライターをやっている。

2024.5.16